処暑を過ぎ、庭を吹き行く風も、いつの間にか秋の気配です。
いつものように朝の散歩を終えタロット庵の椅子に座ると、背後で開き窓がバタン!と閉まりました。
びっくりして後ろを振り向くと…
窓際の蔓植物の茎に、美しいアゲハ蝶が羽根を休めています。
カニやフナ虫、バッタやカマキリなど、いろんなお客さんが訪れるタロット庵ですが、今日は優雅な訪問者です。
近付いて良く見ると、あれれ!
アゲハ蝶のすぐ傍に、サナギの殻が細い細い一本の糸で、茎にしっかりと繋ぎ止められているではありませんか。
タロット庵には観葉植物が所狭しと置いてはありますが、イモ虫くんが食べられるような葉は残念ながらひとつも無く、一体いつ頃からそこで羽化をしていたのか、全く気づきもしませんでした。
おそらく羽化の時を察知したイモ虫くんが台風を避け、エッチラオッチラと壁をよじ登り、窓の隙間から中に入った…と、そういうことらしいのです。
庭のどこかで地味に葉の陰に隠れ、黙々と葉っぱを食べ続けていたイモ虫は、あんな繊細な糸で中空に自分を吊り下げ、全てを運命に委ねて羽化の時を独り静かに待ったのでしょう。
何という厳かな儀式でしょうか・・・
「キミって、本当にすごいねぇ…」
窓を開け、息をひそめて見守っていると、どうやら羽の準備を終えたアゲハ蝶はヒラリと空を切り、まだ入道雲の残る空へと、軽やかに飛び立って行きました。
イモ虫から蝶へ…
いきなり動かなくなった固いサナギの殻の内側で、あの華麗な羽が用意されているなんて、なんという素晴らしい魔法なのでしょうか。
イモ虫くんにインプットされていたプログラムは、ただ一つ。
「大空を飛ぶこと」
それだけです。
「卵が雨に流されたらどうしよう?」
「葉っぱを食べていたら、鳥の餌食になるかも…」
「羽化の最中に、大風が吹いて飛ばされたらもうダメかも…」
そんなインプットは、ほんのちょっともされていないのです。
自分は「飛べる!」と疑いもせず、起きるに任せてベストを尽くし、勇気を出して進んだら、あとは全てを信じて待つばかり。
《さあ!あなたも、「大空を飛ぶ!」とインプットしたら、あとは迷いを捨てて自然の流れに身を任せなさい…》
きっとアゲハ蝶はそんなメッセージを、伝えに来てくれたのかも知れません。
「自由に大空を飛ぶ」
その純粋な願いは、きっと叶うことでしょう。
れべいゆ